韓国・慶尚国立大学の立体型ハイブリッド培養肉は、ステーキの食感と霜降りにどこまで迫ったか

韓国・慶尚国立大学の立体型ハイブリッド培養肉は、ステーキの食感と霜降りにどこまで迫ったか

ニュースの概要

韓国の慶尚国立大学の研究チームが、培養した筋細胞に植物性タンパク質を組み合わせ、立体的な塊の形をもつハイブリッド培養肉を開発した。エンドウ豆、大豆、小麦などのタンパク質と筋細胞を合わせて細い人工の筋繊維をつくり、それを束ねることで、ステーキに近い肉の構造を形にしている。さらに、植物油と牛脂を組み合わせた脂の素材を使い、ロースやヒレのような脂の入り方、つまりマーブリング(霜降り)と噛みごたえの再現にも取り組んだ。これまでの培養肉はひき肉状や薄いシート状の製品が中心で、厚みのある一枚肉は難しいとされてきた。今回の成果は、その壁に対する一つの現実的な答えを示す試みといえる。

引用元: 韓国・慶尚国立大学、食感とマーブリングを再現した立体型ハイブリッド培養肉を開発(Asia Today)

分析・見解

薄いシートから厚い一枚肉へ、何が変わったのか

培養肉の大きな弱点は、厚みのある塊をつくれないことだった。細胞は血管がないと、内部まで栄養を受け取れない。厚さが数ミリを超えると、中心部の細胞が育たず傷んでしまう。そのため、これまでの製品はひき肉状やナゲットのような加工品が中心だった。

今回の研究は、この問題を「細胞だけで育てない」という発想で避けている。まず細い繊維をつくり、あとから束ねる。小さな単位なら栄養が届きやすく、束ねる段階で厚みは自由に出せる。建築でいえば、巨大な壁を一度に作らず、レンガを積んでいく方式に近い。

植物性タンパク質は足場にも増量材にもなる

植物性タンパク質を混ぜる利点は、食感だけではない。細胞は足場(=育つための土台)がないと、繊維の形にそろって並ばない。エンドウ豆、大豆、小麦のタンパク質は足場として働き、できあがった肉の歯ごたえも支える。

コスト面でも意味は大きい。培養液は高価で、細胞の割合を増やすほど値段が跳ね上がる。植物性タンパク質で量を補えば、細胞の使用量を減らせる。2024年にシンガポールで売り出された培養鶏肉入りの商品も、培養肉の割合は約3%とされた。ハイブリッドは妥協ではなく、現実に市場へ出すための標準的な形になりつつある。

霜降りの脂を植物油と牛脂で設計する工夫

肉のおいしさは、赤身よりも脂が左右する面が大きい。霜降りは筋繊維の間に細かい脂が入り込んだ構造で、加熱すると溶けて肉汁と香りを生む。脂肪細胞を培養する方法もあるが、赤身と同じ厚みの塊に均一に混ぜ込むのは難しい。

研究チームは、植物油と牛脂を組み合わせた素材を使った。ここに独自の工夫がある。牛脂を一部使えば牛肉らしい香りと、溶け始める温度(=融点)が得られる。植物油を足せば硬さを調整できる。脂の溶け方まで設計できれば、ロースとヒレのような部位ごとの違いも作り分けられる。ただし牛脂が通常の畜産由来なら、「畜産に頼らない肉」という訴求とぶつかる点は残る。

量産コストと表示ルールが次の関門になる

最大の課題は量産である。研究室で成功した構造を、工場の規模で同じ品質に保つのは別の話だ。繊維を一本ずつ束ねる工程は手間がかかり、自動化できなければ高級食材の域を出ない。

もう一つは表示である。細胞由来と植物由来、動物由来の脂が混ざった製品を、消費者にどう説明するか。韓国は培養食品の審査制度づくりを進めているが、ハイブリッド製品の割合表示の基準は各国で定まっていない。技術の完成度より、制度と信頼の整備が普及の速さを決める可能性が高い。

ビジネスへの影響

配合比率を先に決め、用途を絞り込む

ハイブリッド培養肉では、細胞の割合を何%にするかが設計の出発点になる。割合を上げれば本物の肉に近づくが、原価は急に上がる。下げれば価格は抑えられるが、培養肉としての訴求は弱まる。食品メーカーは、細胞の割合ごとに試作品を作り、味、価格、表示の三点を同時に比べる検証から始めたい。

用途は、ステーキ単体よりも、角切り肉、煮込み用、ローストビーフ風の薄切りなど、少量でも付加価値を出せる商品が現実的である。外食企業なら、まず限定メニューで客の反応を測り、購入意向と価格の許容範囲を数字で集めておくと、後の判断が速くなる。

提携や投資の前に確認したい三つの点

一つ目は、繊維を束ねる工程を自動化できるかどうかだ。手作業が残るなら、量産のたびに品質がぶれる。二つ目は、脂に使う牛脂の由来である。通常の畜産由来なら、環境負荷を減らす狙いや「動物を使わない」という宣伝文句と矛盾しかねない。三つ目は、アレルギー表示だ。小麦は日本でも表示義務の対象で、大豆も表示が推奨されている。植物性タンパク質を多く使うほど、表示と製造ラインの管理が重くなる。

大学発の技術は、論文の段階では工程の再現性が十分に確かめられていないことが多い。共同研究を結ぶなら、試作品の写真ではなく、同じ品質のものを何回つくれたかという記録の提示を求めるべきである。知財(=特許などの権利)の範囲も、繊維の作り方か脂の配合か、どこまで押さえられているかを早めに確認したい。

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