培養肉は英国から先に売れるか、EU協議の暫定免除案
ニュースの概要
英国とEUは、農産食品の通関手続きを簡素化する衛生植物検疫の新協定を協議している。その中で、培養肉や精密発酵食品といった新規食品について、英国が自国の規制を維持できる暫定的な免除措置が検討されていると報じられた。実現すれば、英国で承認された、あるいは英国が独自に審査している新規食品は、EUの審査が終わっていなくても英国市場で売れる可能性がある。ただしEU域内で売るには、EU側の新規食品安全審査を別途通過しなければならない。貿易の円滑化と、食の安全審査の主導権をめぐる綱引きが、培養肉業界の追い風になるかが焦点である。
引用元: 英国・EUの貿易協議で培養肉など新規食品に暫定免除案(Green Queen)
分析・見解
協定に入ると、英国の審査が事実上の独立ルートになる
今回の協議の本筋は、農産食品の検査や書類を減らすことにある。この種の協定は通常、片方がもう片方の規則に合わせる「規制の足並みそろえ」を求める。英国がEUの食品規制に合わせ続けるなら、新規食品の承認もEUの審査結果を待つことになりかねない。免除案は、そこに穴を開けるものである。英国が自前の審査で承認した食品を、EUの結論を待たずに売れるからだ。
培養肉の承認は、世界でもまだ数えるほどしかない。英国は2025年にペット向け培養肉の販売を認め、人間向けでも食品基準庁が安全性評価の枠組みを試してきた。こうした先行実績を、協定が潰さずに済むかどうかが分かれ目だった。
EUの審査は遅く、ここに英国先行の余地がある
EUの新規食品審査は、欧州食品安全機関が科学的評価を行い、その後に加盟国が投票する二段構えである。技術面の評価が済んでも、政治的な反対で止まりやすい。培養肉については、イタリアが2023年に製造と販売を禁じる法律を成立させた。ハンガリーなど他国にも慎重論が根強い。
一方で英国は、規制サンドボックス(=実際に試しながら規則を整える枠)を使い、審査の短縮を進めている。審査が早く、政治的な抵抗が弱い市場は、スタートアップにとって最初の販売先として魅力が大きい。免除が実現すれば、英国は「世界で最初に量産品を売れる欧州の市場」になりうる。
免除は追い風だが、EU市場への近道ではない
ここは誤解しやすい点だ。免除は英国内での販売を守るだけで、EUへの輸出を楽にするものではない。EUで売るには、結局EUの審査を別に通る必要がある。つまり企業は、英国とEUの二つの審査に対応する負担を引き続き抱える。
むしろ注意すべきは、英国で承認された製品がEUに紛れ込む懸念である。EU側は国境での確認を厳しくする可能性がある。免除は小さな勝利だが、貿易の摩擦を増やす副作用も抱えている。
日本の視点では、審査の先行例が増える意味が大きい
日本でも培養肉の規制整備は途上にある。厚生労働省などが議論を続けているが、承認の実例は多くない。英国が独自の審査で先に市場を開けば、安全性評価の方法や表示ルールの実例が積み上がる。日本の企業や行政にとって、これは貴重な参考資料になる。
逆に、英国が免除を得られずEUに合わせる方向になれば、世界の審査が「EU基準」へ収れんする可能性もある。協議の行方は、次の規制の流れを占う材料である。
ビジネスへの影響
まず英国を最初の販売地に据える計画を検討する
培養肉や精密発酵(=微生物にたんぱく質などを作らせる技術)の事業者は、販売の優先順位を見直す価値がある。英国で承認を取り、実際の売上と消費者の反応を示せれば、投資家への説明材料が変わる。EUの審査を待つ間も収益を立てられるからだ。
ただし免除はまだ検討段階で、最終合意の文面次第で範囲は変わりうる。英国向けの申請準備は進めつつ、協定の条文が固まるまで大型投資は段階的に行うのが堅実である。
英国とEUの二重審査を前提に書類を設計する
EUで売る可能性があるなら、最初から両方の審査に使える形で試験データを整えておくとよい。製造工程の記録や安全性試験は、一度で両方に提出できる書式にすると無駄が減る。
日本企業が海外展開を考える場合も同じである。現地の審査機関と早い段階で相談し、必要なデータを逆算して取るのが近道になる。
規制の変化を継続的に追う仕組みを持つ
貿易協定は文言の一行で影響が変わる。担当者を決め、英国食品基準庁とEUの動きを月次で確認する体制を作りたい。あわせて、政策の変化に左右されにくい複数市場への分散も意識すると、規制リスクに強い事業計画になる。