細胞農業とは何か
細胞農業(Cellular Agriculture)は、動物から採取した幹細胞や筋肉前駆細胞を、バイオリアクター内の培地で増殖・分化させて食肉組織を生産する技術の総称です。この技術の中核である培養肉は、生きた動物から継続的に細胞を採取する必要がなく、一度確立した細胞株から繰り返し生産できる点が特徴です。農林水産省も「フードテック研究会」を通じて細胞農業の動向を調査・整理しており、日本国内での研究開発投資が年々増加しています。
環境負荷低減と動物福祉への貢献
従来の畜産と比較して、培養肉は土地使用量を最大99%、温室効果ガス排出量を最大96%削減できるとの試算があります(オックスフォード大学の研究)。水の使用量削減効果も大きく、水資源の乏しい地域での食料生産手段としても注目されています。また、家畜を屠殺する必要がないことから動物福祉の観点でも評価されており、Good Food Institute(GFI)が毎年発行する技術レポートでも、この分野への投資拡大が確認されています。
商業化の現状と世界の動向
シンガポールでは2020年12月、米GOOD Meat社が製造する培養鶏肉が世界で初めて食品当局の販売承認を取得し、レストランでの提供が開始されました。米国では2023年にFDA・USDAが相次いで培養鶏肉を承認し、Upside Foods(旧Memphis Meats)とGOOD Meatが市場参入を果たしています。日本でも日清食品・東京大学連携プロジェクトや、インテグリカルチャー社による独自の培地技術(CulNet System)の開発が進んでいます。詳細な市場動向はJETRO「細胞農業の最前線」レポートでも参照できます。
培養肉が可能にする食の革新
培養肉が普及すると、製造プロセスで栄養素を設計できるという特長が活きます。たとえば、オメガ3脂肪酸を強化した培養牛肉や、アレルゲンとなる成分を除去した培養鶏肉など、従来の畜産では実現困難な製品設計が可能になります。さらに、絶滅危惧種の細胞から希少な食材を倫理的に生産するという研究も行われています。コスト面では、2013年時点で約33万ドルかかっていた培養バーガー1個の生産コストが現在は数十ドル程度にまで低下しており、大量生産技術の確立に伴うさらなるコスト低減が期待されています。